【昔話03】 商人と惣衛門の金言 【後編】


わけあって、家を離れた男。

20年ぶりに、帰ることになりました。

土産は菱餅と、3つの金言?




昔話03 商人と惣衛門の金言 後編




最初重かった足も、日が経つにつれ、普段通りに戻ってまいります。

3両のことは悔やまれますが、それはもう どうしようもないこと。

せめてこの菱餅を土産にしよう。

みんな元気だろうか?

店はまだあるのだろうか?

男はできるだけ、いいことだけを考えるようにしました。


道中、男は 旅一座の一行と出会いました。

旅は道連れということで、一緒に歩いてまいります。

小さな一座でしたが、みな気がよくて、おしゃべりも達者。

歩きながら話をしているだけで、愉快になります。


と、分かれ道に出くわしました。

旅一座は あっちに行くという。

でも、男が行こうと思っているのはこっち。

男は思案しました。

一緒にあっちに行くと、遠回りかな?

でも、道連れになったら、楽しそうだ。

遠回りするだけのことは、ありそうに思える。

がその時、男の頭の中で、惣衛門の声がしました。

「お~い、忘れるな~」

「新しい道のために、古い道を捨ててはならん」

男は、一緒に行こうという 旅一座の申し出を断りました。

今までの礼を言って、互いに手を振り合いながら、あっちとこっちに分かれます。


やがて、あっちの方で声がしました。

声というより、悲鳴です。

それも、聞き覚えのある声。

男はそっちを見上げて、ぞっとした。

そういえば、山賊が出ることがあると、茶屋のおやじが言っていた。

男は駆けだしました。

一心不乱に、ただただ足を動かしました。



気がつくと、日が暮れかけていました。

見回すと、そこいらじゅう原っぱで、何もない。

これは困ったなと思っておりますと、やがて 小屋が見えました。

幸いなことに、灯りがあります。

男は戸口に立って、泊めてもらえないかと頼んでみました。

すると、ほどなくして戸が開いた。

小屋の主人は男の方を見るでもなく、ただ こくりと小さく頷きました。

どうも泊めてくれるらしい。

男は小屋に入りました。


飯時だったようです。

小屋の主人は男に座る場所を指さすと、お椀を持ってきてくれました。

その椀に、雑炊のようなものを よそってくれた。

何を話すでもなく、男と小屋の主人は 雑炊を いただきました。

食べながら、男は小屋の主人の顔を こっそり見てみた。

口元は笑っているようにも見えるのだけれど、目はとても笑っているとは思えない。

というか、よう見えん。

髪で隠れているわけでもないのに、影になってよう見えません。

口元の笑みを、あふれ出る陰気さが消しておりました。


と、奥の襖が開いた。

出てきたのは、女です。

長い髪はバサバサで、顔を覆っております。

這いつくばって、両手を使い、あたりを確かめる。

どうも、目が不自由なようでした。

男は黙って立ち上がると、奇妙な椀を持ってきて、雑炊のようなものを よそいました。

女はそれを受け取ると、奥に下がっていった。


男の持つ椀が、震えておりました。

小屋の主人が女に持たせた、あの奇妙なお椀。

しゃれこうべじゃなかったか?


小屋の主人は元居た場所に戻ると、男の方を見るでもなしに、口を開きました。

「どう思う?」

男は何も言いませんでした。

唾を飲み込むのがやっとで、言葉など出るわけがない。

平静を保とうとしますが、手の震えは止まりません。

小屋の主人は続けました。

「あれは、よくないことをしましてね」
「罰を与えたんです」
「しゃれこうべ、見たかい?」
「あれは、一緒によくないことをした男のもんなんだ」
「あんた、どう思う?」

震える男の頭の中で、惣衛門の声がしました。

「お~い、忘れるな~」

「他人のことに口出しするな」

すると、わずかながら力が湧いてきた。

男は鼻から息を吐き出すと、口から大きく息を吸い込み、言いました。

「あんたには、あんたの、思うところがあるだろう」

小屋の主人は黙っておりましたが、続きを待っているようでもありました。

男は言った。

「何がよいか、何が正しいか、それはそれぞれが持つもんだ」

「あんたにはあんたの、それがあるに違いない」

お椀の中の雑炊のようなものを一心に見つめ、男は言い切りました。


「そうか」

小屋の男はそれだけ言って、また黙りました。


何とか椀の中身を 口の中に流し込む、男でございました。

味などするはずもありません。


生きた心地のしない男でしたが、ひと晩をその小屋で過ごし、翌朝には旅立ちました。


小屋が見えなくなるところまで歩いてやっと、男はひと息つけた。

それにしても、あの雑炊のようなものは、何が入ってたんだろう?

ちょっとだけそう思いましたが、それ以上は考えないようにしました。





歩いて歩いて、もう何日だろうか。

ある日のこと、男の前に懐かしい風景が現れました。

ああ、この山。

ああ、この川。

ああ、この丘。

などと眺めておりますと、ついに自分の故郷にたどり着きました。



うれしいことに、店はそのまま残っておりました。

やや年季が入りましたが、忘れられない家があります。

男はこっそり、家の中を覗きました。

すると、女房の姿があった。

が、誰かと抱き合っております。

相手は、若い男でした。

すらりとした、今でいうところの、イケメンでございます。


男は姿を隠し、震えました。

なんてことだ。

なんてことだ。


懐かしい小川まで、とぼとぼ歩き、考える。

そういうものだろうか?

懐に手を入れると、小刀がありました。

菱餅を切るためのものです。


これで女房を…。

いや、己の首を…。


と、頭の中で、惣衛門の声がした。

「お~い、忘れるなよ~」

「怒るのは次の日にしなさい」


男は顔を上げると、家の方に走り出しました。

家の前まで来ると、家には入らずに、隣の家に入った。

「ごめんやし」

すると、女の人が出てきた。

男は、自分の家を指さして聞きました。

「あそこには誰が住んでるんですか?」

ん? といった顔をした女ですが、すぐに「ああ」と言って しゃべりだした。

「まったく、めでたいねえ」


女の話によると、あそこの奥さんは苦労して子どもを育ててきたらしい。

そしてやがて、上の子が店を手伝うようになり、下の子も頑張って奉公し、それが大きな店の主人に認められ、婿養子になることが決まったのだという。

今日あたり、お祝いでもするのだろう。

これでもう安泰だと、女は言いました。


「ありがとう!」

男はそう言って飛びだすと、やっと我が家の門をくぐりました。


驚いた顔をする女房と我が子でしたが、わだかまりも見せず、互いに喜び合いました。

男は今までのことを話し、女房と子は うんうん頷きながら、それを聞く。


やがて男は はっとして、風呂敷を開きました。

そう、この菱餅を食べねばならぬ。


男は菱餅に、小刀を入れました。

と、ガチっという音が。

何かと思ったら、中から 小判が3枚 出てきました。

男は額に手を当てて、言った。

「こりゃ食えん」








<おしまい>












元ネタは、イタリアのお話。

「ソロモンの忠告」です。














最後まで読んでいただき、ありがとうございました。



よい春が訪れますように…





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荒巻ケンコー

 

管理人 : 荒巻ケンコー

50歳代に突入し、健康の話題を口にすることが多くなりました。老眼が始まったり、白髪もチラホラ。筋肉痛は、2~3日遅れる。

老化は止められないけど、緩やかにしたい。できるだけ健康でいたい。できれば、生活を楽しみたい。そういう気持ちで、情報を集め、分かりやすく記録に残しています。

おいしい食材や簡単料理にも、興味あり。


過去の病気 : 腰痛(椎間板ヘルニア 手術暦あり)
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