【昔話02】 商人と惣衛門の金言 【前編】


昔むかし ある所に、商いをして暮らしている男がいました。

商いはそれなりに成功し、それなりに信用を得て、妻をめとり、子どもも生まれました。

全ては順調でした。




昔話02 商人と惣衛門の金言




それなりというのは、なかなか かけがえのないものです。

あるとないでは、大違い。

失ってはじめて分かることも、あるでしょうか。


おや、男にも その日が来たようです。


ある日の早朝、男はいつものように、店の戸を開けました。

すると、見知らぬ男が 店先に転がっている。

一目見て、命が失われていることが分かります。

魂の有り無しというのは、それだけ雄弁なのです。


男は固まってしまいました。

このまま番所に通報するか?

いや待て、信用されるだろうか?

あらぬ嫌疑をかけられるのではないか?

捕まるのではないか?

厳しい取り調べが始まるのではないか?

自分はそれに耐えられるだろうか?

嫌な未来が、次々にわいてまいります。


商いをしている男は、逃げ出してしまいました。

何も持たず、ただただ走った。

どこへ向かうでもなく、ただただ足を動かし、離れたのです。



いくつの山を越えたでしょうか。

男はやがて、塾の前にたどり着きました。

惣衛門という人が営んでおります。

商いをしていた男は その惣衛門に頼み込んで、住み込みで働かせてもらうことになりました。

報酬はいらないのでどうか働かせてほしいと、一生懸命お願いし、何とか それが受け入れられました。



惣衛門の塾には、全国津々浦々から たくさんの人が集まってきました。

武士もいれば、商人もいます。

農民もいれば、僧侶もいる。

たくさんの人がやって来ました。

何のために来るのかといえば、惣衛門から金言を授かるためです。

人々は相談し、惣衛門は何かしらの答えを授ける。

代わりに、惣衛門はお金を受けとります。

その内容については、元は商人で 今は惣衛門の元で働いている男は、知りません。

が、お客人たちが喜んで帰る様子は、いつも見ていました。

それだけに留まらず、再びやって来て、お礼の品々を置いて帰る者もおります。

庭の掃除をしたり、風呂を焚いたり、飯を作ったり、惣衛門の身の回りの世話をしながら、男はちょっと離れたところで、そんな様子を何年も眺めておりました。



やがて、4年が5回も過ぎ去った。

惣衛門の元で働きながら、男の心に いつもあるのは、店と残してきた家族のこと。

忘れようとしても、忘れられるものではありません。

その思いは募りに募り、ある日のこと、惣衛門に暇をもらえないかとお願いしました。

ひと通り話を聞いた惣衛門は、迷うことなく承知し、餞別として男に 小判3枚を持たせました。

それを懐に入れて旅立とうとする男に、惣衛門は言いました。

「おまえは、私に聞きたいことはないのか?」

男の脳裏に浮かぶのは、うれしそうな客人たちの顔。

来た時と帰る時の顔が、まるで違う。

不安を取り除くまじないでもあるのか? と思えるほどです。


男は惣衛門の方に向き直り、頭を下げてお願いしました。

「ぜひ、金言をくださいまし」

もちろん、惣衛門は頷きます。

ただ、金言ひとつにつき 1両だという。

男にとって 1両は大きなお金でしたが、払うことにしました。


惣衛門が口にした ひとつめの金言は、こうだった。

「新しい道のために、古い道を捨ててはならん」


はあ?

何のこっちゃと、男は思った。

思案するものの、何を意味するのか、さっぱり分かりません。


男は思い切って、もうひとつ金言をいただくことにしました。

すると、惣衛門は言った。

「他人のことに口出しするな」


なんじゃそりゃと、男は心の中だけで、口をへの字に曲げました。

これで 小判2枚?

なんで客人たちは、ニコニコしながら帰ったんだろう?


男は懐に手を入れて、残った1枚の小判を、指でなでました。

そして、思い切った。

「もうひとつ、くださいまし!」

惣衛門は微笑んで言いました。

「怒るのは次の日にしなさい」


男の失望といったら、そりゃもう。

今にも泣き出しそうでした。

涙がこぼれそうで、しょうがない。

これでは博打(ばくち)うちと変わりやしない。

もう1回 もう1回と有り金はたいて、すっからかん。


下を向いて肩を震わす男に、惣衛門は言いました。

「これを持って行きなさい」

手渡されたのは、大きな菱餅。

それを風呂敷にくるんでくれました。

「日持ちするから、家に帰ってみんなで食べなさい」

男は下を向いたままそれを受け取り、深く頭を下げました。

踵(きびす)を返し、惣衛門に背を向ける。

「ありがとうございました!」

なんとか声を振り絞ることができました。


こうして男は、己のバカさ加減に泣きながら、20年お勤めした家を去ったのでございます。

遠くで惣衛門の声が聞こえます。

「お~い、忘れるなよ~!」


忘れたいわい! と、男は心の中で叫びました。

本当に泣けてくる。






<後編に続く>












さてさて、男は家に帰れるんでしょうか?

3つの金言は、結局、何だったの?














最後まで読んでいただき、ありがとうございました。





何もない幸せ。

穏やかなのは、素晴らしきこと。


ちょいと寒いけど…





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荒巻ケンコー

 

管理人 : 荒巻ケンコー

50歳代に突入し、健康の話題を口にすることが多くなりました。老眼が始まったり、白髪もチラホラ。筋肉痛は、2~3日遅れる。

老化は止められないけど、緩やかにしたい。できるだけ健康でいたい。できれば、生活を楽しみたい。そういう気持ちで、情報を集め、分かりやすく記録に残しています。

おいしい食材や簡単料理にも、興味あり。


過去の病気 : 腰痛(椎間板ヘルニア 手術暦あり)
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