【聴力と認知症】 耳の毛と補聴器/ガッテン
音を聴くのに欠かせない、耳の中の毛「有毛細胞」。
なんと、難聴で音の入力が少なくなると、脳の一部が委縮。
認知症の発症率が高くなるという、研究報告が!
聞き間違いが増えてきたら、病院で検査を。
早期発見チェックで確認!
補聴器についての注意点。
世界では、数々の対策キャンペーンが。
・60:60セオリー。
・Make Listening Safe(耳を守るために)。
解説:国際医療福祉大学 三田病院 聴覚・人工内耳センター長 岩崎聡。
2017年12月6日放送の「ガッテン」より、「認知症を防ぐカギ! あなたの“聴力”総チェック!」からのメモ書きです。

□ 耳の中の毛

さあ、今回のテーマは何でしょうか?

「認知症」と「聴力」の関係について、紹介します。
世界五大医学雑誌の一つ「ランセット(The Lancet)」に、2017年7月、次のような報告が掲載されました。
「Dementia prevention,intervention,and care」
「認知症の 35%は、生活習慣次第で予防可能」だと書かれているそうな。
認知症の原因としては、喫煙、肥満、高血圧など、様々ありますが、中でも「最も認知症につながりやすい原因」が見つかったらしい。
いったい、それは何なのでしょうか?
番組冒頭、スタジオに運ばれてきたのは、2本の体温計。
1つは 10年前に購入したもので、もう1つは 最近購入したものです。
実はこの2つ、ある違いがあるんです。
それは、「音」。
古い体温計は、「ピピッ、ピピッ」って感じ。
最近のは、「ピコピコ、ピコピコピコ」みたいな感じです。
実は、この違いが、今回の大切なテーマなのだ。
体温計の他にも、いろんな家電製品の音が、変化しています。
その原因は、毛が減ったから。
ん?
どういうこと?
問題とする毛は、耳の中に生えています。
といっても、耳毛のことではありませんよ。
これは、鼓膜の内側にある毛の話。
内耳にある、「蝸牛(かぎゅう)」。
この蝸牛に、毛があるんですね。

実は、この毛、「外側から内側へ、高い音から順に反応する」んです。
毛が生えている細胞の数は、片方の耳だけで、1万5千から2万個とのこと。
この毛は、「有毛細胞(ゆうもうさいぼう)」という細胞に、生えています。
有望細胞を1つ取り出し、音楽で刺激を与えると、どうなると思います?
だいたい想像はつきますよね。
そう、まるで踊りだしたかのように、動くんです。

でも、これ、ただ踊っているのでは、ないのだ。
耳から入った音の情報を、電気信号に変えて脳へ送るという、大切な役割を果たしてるんです。
私たちは、耳の毛のおかげで、音を聴いたり楽しんだり、できてるんですね。
こんなに大事な耳の中の毛ですが、困ったことが1つあるのだという。
「耳の毛は、一度抜けると、二度と生えない」
しかも、「入り口に近い、高音を担当する毛ほど、ダメージを受けやすい性質がある」。

家電製品などの規格を定めた、JIS 日本工業規格の「高齢者・障害者配慮設計指針 消費生活製品の報知音」。
お知らせ音に関するガイドラインですね。
高齢者や聞こえが悪くなった人などに配慮して、家電などの「お知らせ音」の音質の指針を定めています。
・報知音の基本周波数は、25kHz を超えないことが望ましい。
・加齢性の聴力低下のある高齢使用者の多くは、高い周波数の音の聞き取りに困難がある。
つまり、「ある程度、低い音を入れてください」「でないと、聞き取りにくい人たちがいます」ということ。
最初に出てきた体温計も、新しい製品は、ガイドラインで定められた周波数になってるんですね。
新しいお知らせ音は、高音から低音まで複数の音を含み、誰でも聞こえやすい音になっているのだ。
□ 耳の毛チェック

耳の中の毛ですが、抜ける大きな理由の一つは、体質だという。
髪の毛が薄くなる人がいるように、年齢と共に、抜けてしまう人がいます。
また、騒音も大きな原因。
ヘッドホンで大音量の音楽を聴いたり、車などの騒音を何年も聞き続けると、毛は抜けやすくなってしまうのだ。
<耳の毛が抜ける原因>
(1) 髪の毛が抜けるように、年齢と共に、徐々に抜ける。
(2) ヘッドホンの大きな音や、車の騒音など。
実際、どのくらいの人の毛が抜けているのか、様々な調査を見てみると、耳の毛が抜けて医学的には「難聴」と診断されてしまう人は、60代でも 2割から3割。
聴力には欠かせない、耳の中の毛。
この毛を守るには、どうしたらよいのでしょうか?
<大実験>
ガッテン名物の実験です。
参加してくれたのは、60代以上の50名。
みなさん、普段の会話は問題ありません。
言葉を読み上げてくれたのは、劇団員の早川春香さんだ。
美しい発音です。
課題は、「読み上がられた単語を聞き取って、絵に描く」というもの。
1問目、「ペンチ」と答えた人もいれば、「天地」の人もいる。
他にも、「エンチ」「電気」「ベンチ」など。
答えは「ペンチ」で、正解した人は 50人中 18人でした。
このペンチと答えられなかった 32名に、正式な聴力検査を受けてもらいました。
低音から高音まで、7種類の音で検査します。
すると、医師の判定の結果、32人中 15人が、聞こえに問題があることが判明したんです。
□ 岩崎聡先生の解説
ここでスタジオに、専門家の先生が登場。
国際医療福祉大学 三田病院 聴覚・人工内耳センター長の 岩崎聡 先生です。
先ほどの実験で、聞こえに問題があることが判明した人たち。
みなさん、高い音から、聞こえが落ちているようです。
岩崎先生の解説。
「高い音っていうのは、先ほどの渦巻き管の手前側になります」
「手前から、毛の生えた細胞が、だんだん死んでいくんです」
「みなさん共通してることは、高い音を感じるところから、だんだん低い音の方へ、細胞が順繰りに壊れているということを示してます」
「普通、言葉というのは、『あいうえお』を母音といいます」
「母音以外を、子音というんですけど」
(母音は低めの音、子音は高めの傾向にある)
「母音はみなさん正常に聞こえてますが、子音のところが、ちょっと聞きにくくなる」
例えば、先ほどの実験では、「ペンチ」を、「天地」や「ベンチ」などと聞き間違えました。
ペンチの「ぺ」=PE
天地の「て」=TE
ベンチの「べ」=BE
母音である「あいうえお」の「E(え)」は、ちゃんと聞こえてます。
けれど、子音である「P」「T」「B」の部分は、聞こえにくくなっていると。
岩崎先生によると、「子音だけ間違えるのは、難聴になるとよくある話」とのこと。
「やはり、ちょっと聞き間違いが増えてきたら、しっかりと専門の病院で調べてもらう必要があるかと思います」
「聞き間違いが増えて生活に不自由を感じ始めたら、耳鼻科へ」

耳の中の毛は、重要な役割を担っています。
しかし、様々な原因により減ってしまい、残念ながら、再生はしません。

ガッテン! ガッテン!
□ 脳と耳の関係

先ほどの実験ですが、聴力検査で問題ありとなった人たちも、普段の会話には問題ないようでした。
実際、検査を受けるまで、聞こえが悪くなっていることに、気づいてなかったんです。
普段の生活では問題なし → 聴力検査では問題あり。
でも、なぜ、気づけないのでしょうか?
その理由の一つは、「脳」にありました。
神奈川県は厚木市。
NTTコミュニケーション科学基礎研究所の 柏野牧夫さんを訪ねました。
柏野さんは、音が聞こえる仕組みを研究しているのだ。
人による聞こえ方の違いなど、独自の視点から、様々な聞こえのメカニズムを解き明かしているとのこと。
柏野さんの解説。
「耳に入ってくる情報が欠けていても、私たちの脳が、その欠けた情報を、補うことができるからですね」
例えば、ぶつ切りの音声も、あることをするだけで、聞き取れるようになったりします。
消えた部分にノイズを入れると、つながって聞こえる。
そして、これと同じことを、私たちは普段から、体感してたりするんですよ。
例えば、とってもうるさい街中でも、相手の言葉を聞き取れますよね。
実はこれも、脳の働きのおかげなのだ。
ノイズは、日常生活の中の雑音と同じ役割。
雑音があると、脳は「雑音で聞こえないだけで、本当は音があるはずだ」と判断するんですね。
そして、前後の文脈や音のつながりから、欠けた音を推測して、穴埋めしてくれるんです。
多少、耳の毛が抜けちゃってても、その部分は、脳がカバーしてくれます。
なので、会話には、ほとんど問題は出ない。
これはうれしいことなのですが、同時に、聞こえの悪化に気づけないという面も。
聞こえの悪い状態が長く続くと、やっかいなことにつながる可能性が…。
アメリカにある、ジョンズ・ホプキンス大学。
難聴と脳の関係を研究している、フランク・リン博士に、お話を伺いました。
リン博士は、様々な研究報告を次々と発表する、耳鼻科医の世界的権威なのだ。
実は、このほど、難聴があると 大きなリスクにつながる可能性があることを、突き止めたらしいですよ。
フランク・リン博士のお話。
「長年の研究から、難聴は脳に重大な影響を与えることが分かりました」
「難聴で音の入力が少なくなると、(脳の)音をつかさどる部分の萎縮が進んでしまうことが分かってきたんです」
「その部分は、思考や記憶にも重要な役割を果たす場所なので、それらの能力にも 影響してしまうんです」
このメカニズムについて、岩崎聡先生に教えていただきましょう。
「最近ですね、驚くべき報告があったんですけど、難聴を放置しておくとですね、認知症の発症率が高くなるという研究報告が出ててですね、注目を集めています」
難聴を放置すると、認知症の発症率が高くなる。
「どうして、難聴と認知症と関係するかということですが、あくまでも難聴はその原因の一つなんですけど」
「言葉は、聞くということは、人のコミュニケーションと関係してて、何を話すんだろう? と推測したり、次に何を答えようと考えて、コミュニケーションしてますよね」
「そういう、いわゆる聞こえに関する脳のネットワークというのがありまして」
「難聴が原因で、そういうネットワークが崩れると、認知症が始まると言われてるんです」
会話など、脳を働かせるコミュニケーションが不足すると、認知症を発症してしまうことがある。
リン博士が、639名を対象に、11年間調査した結果があります。
認知症の危険度は、
軽い難聴で、1.89倍。
中くらいの難聴で、3倍。
重い難聴で、4.94倍。

難聴が重くなるほど、認知症のリスクは上がってしまうようです。
□ 補聴器
[体験談]
名古屋市にお住いの男性、Aさん(78歳)。
長年、耳の聞こえの悪さに、悩んできたといいます。
ある程度の音は分かるんですが、言葉が聞き取れません。
今は補聴器をつけて暮らしていますが、外すと、聞こえない。
聞こえが悪くなり始めたのは、10年前だという。
会話に不自由を感じるようになった。
「人と話すのが、ほんと不便だったね」と、当時を振り返ります。
やがて、気持ちの面にも、変化が表れ始めました。
友達からの電話にも、出ることをためらうようになった。
そんなAさんの変化を、奥さんも強く心配しました。
今は穏やかですが、聞こえない時は、イライラしていたらしい。
次第に、ひとりでふさぎ込むことが増えた、Aさん。
何事にも やる気が起きないような日々が、3年間も続いたといいます。
しかし、奥さんから病院に行くことを勧められたのが、転機になりました。
Aさんは、医師と相談して、補聴器をつけて耳の聞こえを改善することを、目指すことにした。
すると、やがて、ふさぎ込んでいた気持ちにも、大きな変化が。
会話を避けることもなくなり、毎日を楽しむ前向きな気持ちが、よみがえってきました。
補聴器のおかげで聞こえるようになり、Aさんは すっかり元気を取り戻したのです。
では、補聴器について、岩崎先生に聞いてみましょう。
補聴器には、箱型のものと、耳かけ型のもの、耳の中に入ってしまうタイプがあります。
形は違うのですが、基本的な性能は、どれも同じとのこと。

聴力検査で高い音が落ちていた場合、落ちているところだけ、音を大きくします。
増幅するのは、「機能の落ちているところ」だけなんですね。
<補聴器の機能>
聞こえが悪くなっている部分の音だけを、強くして聞こえやすくする。
なので、耳鼻科でちゃんと検査を受けないと、正確な調整はできません。
耳鼻科で検査をして、聞こえの症状を確認してから、補聴器の必要な部分を調整する。
補聴器は、単なる音の増幅装置ではないんですね。
聞こえづらくなっている部分だけを、増幅する。
そうでないと、聞こえてる部分まで大きくなったら、うるさくて仕方ありません。
聞こえない部分だけを補う、それが補聴器。
だから、こまめに検査して、調整する必要があると。
その人自身に、フィットさせる必要があるのです。
先生によると、声が大きくて話が上手な人は、軽い難聴でもちゃんとコミュニケーションが取れるので、補聴器を必要としないケースもあるそう。
けれど、聞き間違いが増えてきて、だんだんと人との交わりを避けるようになってくると、問題が。
また、周りがボソボソしゃべる人が多いとか。
あるいは、会議に出てしっかり聞かなくてはならない人とか。
そういう人の場合は、軽い難聴でも、補聴器が必要になってくるとのこと。
補聴器は、難聴の程度ではなく、自分のライフスタイルに合わせて判断すること。
補聴器は、使う人の聞こえ方に合わせて、様々な調整をする必要があります。
初めて補聴器をつける時は、今まで聞こえていなかった音が入るようになるので、少しうるさく感じます。
でも、きちんと調整を繰り返せば、およそ 3か月から半年ほどで、耳が慣れてくるとのこと。
その後も、定期的に点検をしてもらいましょう。
価格は、5万円ほどから。
まずは、耳鼻科で検査を受けて、聞こえの状態をしっかり確認してもらいましょうね。
最近は、「補聴器外来」や「補聴器相談医」という専門家も増えているので、事前に調べておくのも、おススメです。
<補聴器のポイント>
(1) 調整できていな補聴器をつけると、うるさく感じることもある。
(2) 聞こえの症状の検査や、補聴器の調整をすると、3か月ほどで慣れてくる。
(3) 購入する時は、まず耳鼻科に相談。「補聴器外来」や「補聴器相談医」もおすすめ。
耳の毛の代わりを果たしてくれる「人工内耳」という機械もあります。

手術が必要になりますが、重い難聴でも改善が期待できて、保険適用あり。
□ 難聴の早期発見チェック

最後は、難聴に気がつかないまま放置しないための、早期発見法を紹介します。
<難聴の入り口 早期発見チェック>
・ふいに声をかけられると、聞き取りづらい。
・人の名前(例:加藤と佐藤)を聞き間違える。
・車の音がしても、どこから来るか分からない。
・小声は聞き取りづらいが、大声は異常に響く。
若い時は、一度に数人から話しかけられても、だいたい分かります。
しかし、年齢を増すと、一人ひとり真剣に聞かないと、話が分からなくなる。
これは、聞き取りの脳の機能が、落ちているのだそうな。
名前を聞き間違えるのは、上で紹介した、母音と子音の関係。
加藤の「か」=KA
佐藤の「さ」=SA
母音の「A」は分かるのですが、子音の「K」や「S」が聞きづらい状態です。
3つ目は、方向感といって、車が後ろか右か左か、どこから来るか分からない。
これは、脳の聞き取り機能が落ちてくると、音の方向感が分かりにくくなるから。
4つ目は、聞こえる幅が狭いということです。
聞こえだして、ちょっといくと、もう響いてしまう。
耳の細胞が減ってくると、こういう現象になるのだそうです。
耳の中の毛が落ちるのは、血流が悪くなるから。
血流が悪くなると、細胞が死んでしまうのだそうな。
耳の毛は、年齢や騒音で抜けやすくなるのですが、実はこれ、血流が悪くなることが関係しているんです。
「蝸牛」は、耳の毛が中に並んでいる小さな器官で、血管がものすごく細い。
血流が不足すると、耳の毛は死んでしまいます。
十分な血流を保つことが、耳の毛を守ることに、つながるんですね。
具体的には、「有酸素運動」が良いとのこと。
岩崎先生によると、アメリカで若い人の難聴が増えているそうです。
「60:60セオリー」というものがある。
ヘッドホンなどで、60分以上聞かない。
ボリュームは、最大の60%より大きくしない。
耳の酷使をやめて、休ませてあげましょうというわけ。

聞こえの悪さは、音量だけの問題ではありません。
血流を守って、耳の毛を大事にしましょうね!

ガッテン! ガッテン!
□ 難聴対策キャンペーン

今、世界では、難聴への関心が、少しずつ高まっているのだそうな。
世界の難聴者は、推定で5億人。
若者や子どもの難聴者も、少なくないのだという。
「SUPPORT FROM MORE THAN 100 FAMOUS AMBASSADORS」
そこで今始まっているのは、難聴対策の啓蒙(けいもう)キャンペーンです。
スティング、シンディ・クロフォードなど、世界的な歌手やアーティスト、著名人たちが、その重要性を呼びかけている。
「Make Listening Safe(耳を守るために)」
2015年、WHOも、難聴対策キャンペーンを実施しました。
若い世代を対象に、大音量で音を聴くことの危険性を、訴えています。
私たちの生活に欠かせない、健康な耳。
耳を守ることは、若々しい脳を保つことに、つながります。
耳の毛を、大事にしましょうね!



次回は、これ。
90分サイクルで起きればいいというのは、都市伝説?
気持ちよく目覚めるには、どうしたらいいの?
「あなたの朝が変わる! “目覚め”解明SP」。
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