「脳卒中 6ヵ月の壁とボツリヌス療法/ためしてガッテン」
2年もの間、開くことがなかった右手。
原因は、脳出血でした。
そこで大切になるのが、リハビリテーションです。
手足に麻痺が残った場合など、懸命なリハビリで回復を図ります。
でも、そこには「6ヵ月の壁」があるという。
どんなに頑張っても、6ヵ月後には改善の効果は頭打ちに。
でも、この壁が打ち破られようとしています。
東京慈恵会医科大学 リハビリテーション医学講座の安保雅博 教授は言いました。
「麻痺はよくなる」と。
新たに発見された素晴らしい方法って、何だ?
2年間動かなかった指が、動いたって?
肩が回るようになった?
徳島大学神経内科の梶龍兒 教授も言ってくれました。
麻痺は何年たっても、改善する例がどんどん出てきていると。
2012年6月6日放送の「ためしてガッテン」より、「つかむ!歩く!脳卒中リハビリ夢の最前線」からのメモ書きです。

□ 6ヵ月の壁
・いつものように始まったガッテンですが、
あれ? 志の輔さんがいない?
・声はするのですが、姿がありません。
・小野文恵アナの後ろにあるのは、
レンガの壁?
・おっと、いきなり小野アナが、
壁に風穴を開けましたよ。
・このコントには、意味があります。
・脳卒中のリハビリには、
「6ヵ月の壁」があるんです。
・今日はその強固な壁に、
風穴を開けようというわけ。
・番組によると、
麻痺改善の可能性がある人は
推定で119万人。
・その現状とは、いったい。
・脳卒中を発症すると、
患者さんはリハビリをはじめる。
・でも、きちんとリハビリを続けても、
改善が止まる時期が訪れるというのです。
・それが、6ヵ月の壁。
・70歳の男性。
・仮に、Aさんとします。
・Aさんは脳梗塞による麻痺で、
右半身が思うように動きません。
・中でも右の拳は固くこわばり、
まったく開かない状態。
・2年前、突然Aさんは脳梗塞を発症。
・何とか一命は取り留めたものの、
全身が動かなくなりました。
・それが懸命のリハビリで、
装具があれば歩けるようにまで回復した。
・ところがです。
・ほとんどの患者さんは、
6ヵ月を迎える頃になると、
症状の改善が止まってしまうといいます。
・Aさんにも、この壁が立ちはだかった。
・自宅でトレーニング機器を自作、
リハビリを続けましたが、
手足が元のように回復することは
ありませんでした。
・努力を重ねたのに、
1年たっても進歩が感じられない。
・その現実に、本人もご家族も
涙を流したという。
・6ヵ月の壁というのは、
あまりにも高い壁なのです。
・発症してからの6ヵ月は、
目に見える改善が得られるという。
・なので、発症から6ヵ月までを
「回復期」と呼ぶ。
・それに対して、6ヵ月からは
「維持期」になります。
・また、この壁の影響か、脳卒中の場合、
入院期間は医療制度により
最長180日と決まっているそう。
・それ以降は退院してもらい、
訪問サービスやデイサービスで
リハビリが行われる。
(ただし、医師が必要と判断した場合は、延長が可能)
□ 神経細胞のつながり
・でも、手足の麻痺って、
そもそもどうやって起きるのだろう?
・脳卒中などが起きると、
脳細胞の一部が壊死する。
・この細胞がよみがえることは
ないそうですが、実は、
周りの細胞が代わりを
務めてくれるようになるという。
・ラットの脳を使った実験。
・周囲の神経細胞が伸びて、
つながる様子が確認できます。
・つまり、時間の経過と共に
神経ネットワークが復活していくのです。
・じゃあ、脳の指令は、前のように届くの?
・損傷の具合にもよるものの、
脳の機能回復は脳卒中発症後
6ヵ月で止まるわけではないという。
・あれ?
・じゃあなんで、6ヵ月の壁はあるのだろう?
・脳の機能は回復するのに、
どうして麻痺は残ってしまうの?
・脳から脊髄へは、
普通の神経細胞に比べ とびっきり長い
神経細胞が通っている。
・これは、運動の指令を伝える神経。
・脳から出た司令は、この神経を通り
筋肉に向かいます。
・番組ではこれを、女王様とした。
・ところが司令は、一気に筋肉まで
伝わりません。
・脊髄から先は、
別の神経がつながっているのです。
・脳 → 脊髄 → 筋肉に伝える神経 → 筋肉。
・この連係で指令が伝わり、筋肉が動くんですね。
・ところが、脳卒中が起きると
たいへんなことになります。
・肝心の指令の通り道が、なくなってしまう。
・脳のダメージと共に、神経までが。
・もはやここまでかと思われましたが、
周囲の短い神経細胞たちが立ち上がった。
・女王様に代わり、互いに手をつなぎながら、
指令の通り道を作ろうとしています。
・ただ、難点があって、
指令が遠回りするため
信号が弱くなってしまいます。
・ここでリハビリを行えば、
神経細胞同士が手をつなぎ
少しずつ近道を見つけようと
するようになる。
・リハビリを頑張ることで、
神経回路の効率がよくなるんです。
・発症から時間が経つと
神経細胞たちはヘトヘトになりますが、
近道探しは続きます。
・あともう少しで、
腕の筋肉につながっている神経まで
届きそう。
・あと、もうちょっと!
・そう思ったのですが、最後の最後で、
つながることができない。
・な~ぜ~?
・神経細胞くん同士が手をつなぎ、
やがて筋肉へとつながる神経とも
つながろうと伸びてきます。
・この時、何と、別の手が出てきて、
筋肉につながる神経は
そちらと手をつないでしまった。
・つまりは、横取りされて、
他の神経とつながってしまったのです。
・これと同じことを体験できる実験を、
スタッフさんがやりました。
・まずは、アルミ缶に熱いお湯を入れる。
・当然、アツアツです。
・これを持って他のスタッフの背後に立ち、
缶を腕につけます。
・当然、熱っ! となりますよね。
・これが、麻痺が起きている時の
手の状態なんだって。
・今度は事前に知らせておいてから、
缶を近づけます。
・すると、熱いのは熱いんですが、
先ほどのように、
ビクッ! とはなりませんでした。
・これが、麻痺が起きているかどうかの
違いだと言います。
・ここからは、模型で説明してくれました。
・脳から脊髄へ、神経が伸びています。
・これが、女王様と表現されていた部分。
・そして、筋肉から脊髄へも、
神経が伸びています。
・また、脊髄から筋肉へ信号を送るための
神経も伸びている。
・不意に熱い缶が近づいて来た場合、
アチッ! という情報が
筋肉から脊髄へと送られる。
・そうすると脳を介さずに、
脊髄は筋肉に 縮め! と指令を出す。
・これが、ビクッ! という反応。
・反射(反射運動)というものですね。
・これが、予告された場合はどう変わるか。
・熱いという情報は、筋肉から脊髄へ
伝わります。
・すると同時に、脳からも指令が来る。
・「大したことないよ」
「大きく反応しなくても大丈夫」
そんなコントロールの指令も来る。
・その司令は、脳から脊髄、
脊髄から筋肉へと伝わり、
この場合は腕がちょっとだけ動く。
・では、脳卒中の場合はどうか?
・この時、女王様、脊髄の中の神経は、
いなくなります。
・ということは、脳からの指令はないので、
筋肉から脊髄に送られた信号は
脊髄から筋肉へと折り返すだけになってしまう。
・筋肉から脊髄へは、熱いと。
・脊髄から筋肉へは、縮めと。
・それがずっと、繰り返される。
・さらにこれが、暴走してくるんですね。
・熱い縮め、熱い縮めが繰り返されるので、
筋肉が硬く硬く収縮してしまうのです。
・さらに、まだあるといいます。
・このループを繰り返しているうちに、
脊髄内にある信号の受け皿が
向きを変えてしまうのです。
・こうなると、どれだけ小さな神経たちが
頑張っても、つながりません。
・受け皿が向きを変えているので、
信号が伝わらないのです。

図1 不意の場合、反射運動が
(筋肉→脊髄 脊髄→筋肉)

図2 知っている場合、脳からも指令が

図3 脳卒中の場合 脊髄の神経はなし
受け皿もやがて、そっぽを向いてしまう
・これが、6ヵ月の壁の正体。
・でも、患者さんの場合、
いつも熱いものがあるわけでは
ないですよね。
・刺激がないのに、なぜ収縮するの?
・なぜ、反射は暴走するんだろう?
□ 筋紡錘も暴走
・スタジオでは、また実験が。
・2つのペットボトルを渡されます。
・すると片側は、カクンとなった。
・ふたつとも
真っ黒なペットボトルなんですが、
片側はすごく重く作られているんです。
・外見は同じなのに。
・私たちの体は、
筋肉が伸びすぎたら危険なので、
縮めようとします。
・この実験では、
思ったよりも重い物に対し、
グッと力を入れて持ちこたえた。
・前にも出てきましたが、
筋肉の中には
バネのような存在がいる。
・名前を「筋紡錘(きんぼうすい)」
と言って、通称「筋さん」と呼びましたよね。
・この筋紡錘が、
センサーの役割をするんです。
・筋肉が伸びすぎると傷んでしまうので、
伸びすぎそうになると
縮めるように信号を送る。
・ところが、女王様がいなくなると、
筋紡錘に異常が発生。
・いつも過敏な状態になって、
やたらめったら
縮めという信号を出してしまうのです。
・じゃあ、どうしたらいいんだろう?
□ ボツリヌス療法
・これに対し、すばらしい薬があります。
・先述のAさんが、この薬を使って
新しい治療を受けました。
・そのわずか10日後、
なんと物がつかめるようになった。
・まさに、衝撃です。
・さらには、
肩まで回るようになりました。
・信じられないと、
奥さんも驚いています。
・別の、54歳の男性。
・後遺症で足も麻痺し、
筋肉が凝り固まっているので、
ヒザが90度から
ほとんど伸びなかった。
・その人がこの治療を受けたところ、
8日後には立ち上がることができた。
・さらに、歩行の練習まで。
・では、この薬は、どんなものなんでしょう?
・それは、世界最強の神経毒だという。
・フグの8千倍の毒を持つという
「ボツリヌス菌」の出す毒素で
できているのです。
・この薬を筋肉に注射すると、
筋肉から脊髄への神経の働きを弱める。
・すると、縮めという司令もなくなって、
筋肉の収縮がゆるむんです。
・これで、暴走状態が
いったん収まったことになります。
・すると、あれあれ、
受け皿がちゃんと向きなおすのです。
・これで周辺の神経細胞によって
運ばれた指令が、
ようやく受け取れるようになると。
・つまり、6ヵ月の壁を突破できるのです。
・リハビリの効果を期待できるような
状態になるんだ。
・ここでスタジオに登場して下さったのが、
徳島大学 神経内科の梶龍兒 教授。
・先生によれば、
この薬のもとになる物自体は
1970年頃にはあったそう。
・ボツリヌス菌というのは
食中毒を起こす毒なのですが、
働く量を千分の1に精製して
薬として使用します。
・1年半ほど前に認可され、
脳卒中後の麻痺に対して
保険適用されるようになった。
・そしてビックリしたことに、
使いはじめて1週間ほどで
効果が出はじめるそうです。
・1回の注射で、3ヵ月ほど
効果が持続するといわれる。
・その間にリハビリすることで、
回復が見込めることに。
・この薬が反射の暴走を抑えてくれて、
患者さんはその間にリハビリをする。
・それで、神経の結びつきを作るのです。
・ただ、改善の度合いには
個人差がある。
・この療法のいいところは、
脳卒中発症後、何年経過しても、
高齢者でも、効果が期待できるところ。
・本当に本当に、朗報ですね。
・気になるのは副作用ですが、
注射した場所が痛んだり、
筋肉がだるくなるなどは
まれにあるそう。
・でも、大きな副作用はなし。
・主な診療科は、
神経内科とリハビリテーション科です。
・この注射により、わずかに動くようになる。
・それで本人も、介護される家族の方も、
非常に自信がつくそうです。
・つまり、小さな機能回復であっても
人間の尊厳が生まれてくると。
・なので、その後の人生が変わるということも
報告されているそうですよ。
・ボツリヌス療法とリハビリで、
6ヵ月の壁は越えられる!
・ガッテン! ガッテン!
□ 磁気刺激治療
・番組はここで終わりません。
・もうひとつ、最新の治療法があるそうです。
・総合東京病院。
・そこで画期的な治療法が、研究されています。
・63歳の男性。
・脳出血による後遺症で、
右半身麻痺と失語症になってしまいました。
・もう10年も前の発症になります。
・右手の指はわずかに動くのですが、
手のひらは開きません。
・ボールなどは、つかむことができない。
・そんな男性には、夢があります。
・大型の一眼レフで、
より美しい写真を撮りたい。
・ある日から2週間の入院で、
新しい治療法を受けることになりました。
・診察室を見せてもらうと、
頭に何か当ててますねえ。
・これは何をしているのかというと、
磁気を当てている。
・この治療を、20分間受けます。
・その後に、リハビリやトレーニング。
・これを2週間続けることになりました。
・1週間後、さっそく変化が。
・指が大きく動くようになってます。
・これは、驚きの変化です。
・そして、2週間後。
・退院の日には、
ボールをつかめるようになっていました。
・5つのボールを、右から左に移動させた。
・その時の笑顔ときたら、もうとびっきり。
・気になるのは、この治療に
どんな意味があったのか。
・この治療を指導してくれた
東京慈恵会医科大学 リハビリテーション医学講座
安保雅博 教授に聞いてみました。
・すると先生は、
「磁気刺激で脳の活性・活動を抑えた」と
説明してくれました。
・脳が頑張りすぎちゃうと、
かえってよくなるべき麻痺が
よくならない。
・「大脳半球間抑制」
という言葉がある。
・人間の脳には、右脳と左脳があると
よく言われます。
・何をするかによって
分担が決まっているとも言われますが、
でも実際は、右脳が働いている時、
右脳が指令を勝手にだしすぎないように
左脳もちょっと働くのだそうです。
・逆に左脳が働く時も、
右脳が左脳の働きをちょっと抑える。
・このような仕組みがあるんです。
・そのおかげで例えば、
人差し指を動かしたい時には
中指や薬指を動かさないように
することができる。
・脳卒中を発症して2年たった患者さん。
・右脳で発症したので
左半身が麻痺している人の脳の画像。
・左手を動かそうとしているのですが、
その時は右脳が使われる。
・でも、画像を見ると、
左脳が頑張りすぎているのが分かります。
・つまり、
左脳による抑制力が働きすぎて、
かえって動かしたい部分が
動かなくなっているんです。
・で、この時、
磁気刺激で左脳の働きを弱める。
・すると、この人は、
お箸を持てるようになったそうです。
・この治療法は、まだ研究段階。
・「磁気刺激治療」というのですが、
研究に参加した患者さんの
7~8割で効果が出ているそう。
・ただし、適応基準を満たさねばなりません。
・それは、
麻痺側の手の指が最低
3本動くこと。
・磁気で脳の働きを弱め、
6ヵ月の壁を超える可能性が!
・ガッテン! ガッテン!
![NHK ためしてガッテン 2012年 05月号 [雑誌]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/61A7CjtmGQL._SX200_.jpg)

□
治るのが難しいと言われてきた中に、この情報。
期待する人も、多いのではないでしょうか。
今までは無理だったのに、可能性が出てきた。
少しでも動くようになった時の、あの顔。
人間の尊厳を取り戻すというのは、本当のようです。
しかし、毒からこんな療法が生まれるとは、驚きです。
磁気によるバランス回復も、期待を持っちゃいますね。
[まとめ]
・リハビリを続けていても訪れる、
6ヵ月の壁。
・この頃から、改善の効果が頭打ちに。
・脳卒中になると、脊髄の中の
神経まで支障をきたす。
・脳からの指令がない中で、
筋紡錘がやたら筋肉に
縮めと指令を出し、
筋肉は硬くこわばってしまう。
・そこで使われるのが、ボツリヌス菌。
・これを注射することで、
筋肉の暴走状態がおさまる。
・さらに、受け皿がちゃんとした
方向を向く。
・この時にリハビリをすると、
6ヵ月の壁を超えられるというわけ。
・人間の脳は、右脳と左脳で
互いに抑制し合い
バランスを保っている。
・しかし、
脳卒中になるとバランスが崩れ、
過剰な抑制が働くことも。
・この時に磁気で脳を抑制し、
バランスを回復させる。
・これが、磁気刺激治療。
・まだ研究段階ですが、効果が期待されます。
次回は、「あの鶏むね肉が絶品に変わるウルトラ技発見」。


→ 「ためしてガッテン 2011年のアーカイブ 前半」
原因は、脳出血でした。
そこで大切になるのが、リハビリテーションです。
手足に麻痺が残った場合など、懸命なリハビリで回復を図ります。
でも、そこには「6ヵ月の壁」があるという。
どんなに頑張っても、6ヵ月後には改善の効果は頭打ちに。
でも、この壁が打ち破られようとしています。
東京慈恵会医科大学 リハビリテーション医学講座の安保雅博 教授は言いました。
「麻痺はよくなる」と。
新たに発見された素晴らしい方法って、何だ?
2年間動かなかった指が、動いたって?
肩が回るようになった?
徳島大学神経内科の梶龍兒 教授も言ってくれました。
麻痺は何年たっても、改善する例がどんどん出てきていると。
2012年6月6日放送の「ためしてガッテン」より、「つかむ!歩く!脳卒中リハビリ夢の最前線」からのメモ書きです。

□ 6ヵ月の壁
・いつものように始まったガッテンですが、
あれ? 志の輔さんがいない?
・声はするのですが、姿がありません。
・小野文恵アナの後ろにあるのは、
レンガの壁?
・おっと、いきなり小野アナが、
壁に風穴を開けましたよ。
・このコントには、意味があります。
・脳卒中のリハビリには、
「6ヵ月の壁」があるんです。
・今日はその強固な壁に、
風穴を開けようというわけ。
・番組によると、
麻痺改善の可能性がある人は
推定で119万人。
・その現状とは、いったい。
・脳卒中を発症すると、
患者さんはリハビリをはじめる。
・でも、きちんとリハビリを続けても、
改善が止まる時期が訪れるというのです。
・それが、6ヵ月の壁。
・70歳の男性。
・仮に、Aさんとします。
・Aさんは脳梗塞による麻痺で、
右半身が思うように動きません。
・中でも右の拳は固くこわばり、
まったく開かない状態。
・2年前、突然Aさんは脳梗塞を発症。
・何とか一命は取り留めたものの、
全身が動かなくなりました。
・それが懸命のリハビリで、
装具があれば歩けるようにまで回復した。
・ところがです。
・ほとんどの患者さんは、
6ヵ月を迎える頃になると、
症状の改善が止まってしまうといいます。
・Aさんにも、この壁が立ちはだかった。
・自宅でトレーニング機器を自作、
リハビリを続けましたが、
手足が元のように回復することは
ありませんでした。
・努力を重ねたのに、
1年たっても進歩が感じられない。
・その現実に、本人もご家族も
涙を流したという。
・6ヵ月の壁というのは、
あまりにも高い壁なのです。
・発症してからの6ヵ月は、
目に見える改善が得られるという。
・なので、発症から6ヵ月までを
「回復期」と呼ぶ。
・それに対して、6ヵ月からは
「維持期」になります。
・また、この壁の影響か、脳卒中の場合、
入院期間は医療制度により
最長180日と決まっているそう。
・それ以降は退院してもらい、
訪問サービスやデイサービスで
リハビリが行われる。
(ただし、医師が必要と判断した場合は、延長が可能)
□ 神経細胞のつながり
・でも、手足の麻痺って、
そもそもどうやって起きるのだろう?
・脳卒中などが起きると、
脳細胞の一部が壊死する。
・この細胞がよみがえることは
ないそうですが、実は、
周りの細胞が代わりを
務めてくれるようになるという。
・ラットの脳を使った実験。
・周囲の神経細胞が伸びて、
つながる様子が確認できます。
・つまり、時間の経過と共に
神経ネットワークが復活していくのです。
・じゃあ、脳の指令は、前のように届くの?
・損傷の具合にもよるものの、
脳の機能回復は脳卒中発症後
6ヵ月で止まるわけではないという。
・あれ?
・じゃあなんで、6ヵ月の壁はあるのだろう?
・脳の機能は回復するのに、
どうして麻痺は残ってしまうの?
・脳から脊髄へは、
普通の神経細胞に比べ とびっきり長い
神経細胞が通っている。
・これは、運動の指令を伝える神経。
・脳から出た司令は、この神経を通り
筋肉に向かいます。
・番組ではこれを、女王様とした。
・ところが司令は、一気に筋肉まで
伝わりません。
・脊髄から先は、
別の神経がつながっているのです。
・脳 → 脊髄 → 筋肉に伝える神経 → 筋肉。
・この連係で指令が伝わり、筋肉が動くんですね。
・ところが、脳卒中が起きると
たいへんなことになります。
・肝心の指令の通り道が、なくなってしまう。
・脳のダメージと共に、神経までが。
・もはやここまでかと思われましたが、
周囲の短い神経細胞たちが立ち上がった。
・女王様に代わり、互いに手をつなぎながら、
指令の通り道を作ろうとしています。
・ただ、難点があって、
指令が遠回りするため
信号が弱くなってしまいます。
・ここでリハビリを行えば、
神経細胞同士が手をつなぎ
少しずつ近道を見つけようと
するようになる。
・リハビリを頑張ることで、
神経回路の効率がよくなるんです。
・発症から時間が経つと
神経細胞たちはヘトヘトになりますが、
近道探しは続きます。
・あともう少しで、
腕の筋肉につながっている神経まで
届きそう。
・あと、もうちょっと!
・そう思ったのですが、最後の最後で、
つながることができない。
・な~ぜ~?
・神経細胞くん同士が手をつなぎ、
やがて筋肉へとつながる神経とも
つながろうと伸びてきます。
・この時、何と、別の手が出てきて、
筋肉につながる神経は
そちらと手をつないでしまった。
・つまりは、横取りされて、
他の神経とつながってしまったのです。
・これと同じことを体験できる実験を、
スタッフさんがやりました。
・まずは、アルミ缶に熱いお湯を入れる。
・当然、アツアツです。
・これを持って他のスタッフの背後に立ち、
缶を腕につけます。
・当然、熱っ! となりますよね。
・これが、麻痺が起きている時の
手の状態なんだって。
・今度は事前に知らせておいてから、
缶を近づけます。
・すると、熱いのは熱いんですが、
先ほどのように、
ビクッ! とはなりませんでした。
・これが、麻痺が起きているかどうかの
違いだと言います。
・ここからは、模型で説明してくれました。
・脳から脊髄へ、神経が伸びています。
・これが、女王様と表現されていた部分。
・そして、筋肉から脊髄へも、
神経が伸びています。
・また、脊髄から筋肉へ信号を送るための
神経も伸びている。
・不意に熱い缶が近づいて来た場合、
アチッ! という情報が
筋肉から脊髄へと送られる。
・そうすると脳を介さずに、
脊髄は筋肉に 縮め! と指令を出す。
・これが、ビクッ! という反応。
・反射(反射運動)というものですね。
・これが、予告された場合はどう変わるか。
・熱いという情報は、筋肉から脊髄へ
伝わります。
・すると同時に、脳からも指令が来る。
・「大したことないよ」
「大きく反応しなくても大丈夫」
そんなコントロールの指令も来る。
・その司令は、脳から脊髄、
脊髄から筋肉へと伝わり、
この場合は腕がちょっとだけ動く。
・では、脳卒中の場合はどうか?
・この時、女王様、脊髄の中の神経は、
いなくなります。
・ということは、脳からの指令はないので、
筋肉から脊髄に送られた信号は
脊髄から筋肉へと折り返すだけになってしまう。
・筋肉から脊髄へは、熱いと。
・脊髄から筋肉へは、縮めと。
・それがずっと、繰り返される。
・さらにこれが、暴走してくるんですね。
・熱い縮め、熱い縮めが繰り返されるので、
筋肉が硬く硬く収縮してしまうのです。
・さらに、まだあるといいます。
・このループを繰り返しているうちに、
脊髄内にある信号の受け皿が
向きを変えてしまうのです。
・こうなると、どれだけ小さな神経たちが
頑張っても、つながりません。
・受け皿が向きを変えているので、
信号が伝わらないのです。

図1 不意の場合、反射運動が
(筋肉→脊髄 脊髄→筋肉)

図2 知っている場合、脳からも指令が

図3 脳卒中の場合 脊髄の神経はなし
受け皿もやがて、そっぽを向いてしまう
・これが、6ヵ月の壁の正体。
・でも、患者さんの場合、
いつも熱いものがあるわけでは
ないですよね。
・刺激がないのに、なぜ収縮するの?
・なぜ、反射は暴走するんだろう?
□ 筋紡錘も暴走
・スタジオでは、また実験が。
・2つのペットボトルを渡されます。
・すると片側は、カクンとなった。
・ふたつとも
真っ黒なペットボトルなんですが、
片側はすごく重く作られているんです。
・外見は同じなのに。
・私たちの体は、
筋肉が伸びすぎたら危険なので、
縮めようとします。
・この実験では、
思ったよりも重い物に対し、
グッと力を入れて持ちこたえた。
・前にも出てきましたが、
筋肉の中には
バネのような存在がいる。
・名前を「筋紡錘(きんぼうすい)」
と言って、通称「筋さん」と呼びましたよね。
・この筋紡錘が、
センサーの役割をするんです。
・筋肉が伸びすぎると傷んでしまうので、
伸びすぎそうになると
縮めるように信号を送る。
・ところが、女王様がいなくなると、
筋紡錘に異常が発生。
・いつも過敏な状態になって、
やたらめったら
縮めという信号を出してしまうのです。
・じゃあ、どうしたらいいんだろう?
□ ボツリヌス療法
・これに対し、すばらしい薬があります。
・先述のAさんが、この薬を使って
新しい治療を受けました。
・そのわずか10日後、
なんと物がつかめるようになった。
・まさに、衝撃です。
・さらには、
肩まで回るようになりました。
・信じられないと、
奥さんも驚いています。
・別の、54歳の男性。
・後遺症で足も麻痺し、
筋肉が凝り固まっているので、
ヒザが90度から
ほとんど伸びなかった。
・その人がこの治療を受けたところ、
8日後には立ち上がることができた。
・さらに、歩行の練習まで。
・では、この薬は、どんなものなんでしょう?
・それは、世界最強の神経毒だという。
・フグの8千倍の毒を持つという
「ボツリヌス菌」の出す毒素で
できているのです。
・この薬を筋肉に注射すると、
筋肉から脊髄への神経の働きを弱める。
・すると、縮めという司令もなくなって、
筋肉の収縮がゆるむんです。
・これで、暴走状態が
いったん収まったことになります。
・すると、あれあれ、
受け皿がちゃんと向きなおすのです。
・これで周辺の神経細胞によって
運ばれた指令が、
ようやく受け取れるようになると。
・つまり、6ヵ月の壁を突破できるのです。
・リハビリの効果を期待できるような
状態になるんだ。
・ここでスタジオに登場して下さったのが、
徳島大学 神経内科の梶龍兒 教授。
・先生によれば、
この薬のもとになる物自体は
1970年頃にはあったそう。
・ボツリヌス菌というのは
食中毒を起こす毒なのですが、
働く量を千分の1に精製して
薬として使用します。
・1年半ほど前に認可され、
脳卒中後の麻痺に対して
保険適用されるようになった。
・そしてビックリしたことに、
使いはじめて1週間ほどで
効果が出はじめるそうです。
・1回の注射で、3ヵ月ほど
効果が持続するといわれる。
・その間にリハビリすることで、
回復が見込めることに。
・この薬が反射の暴走を抑えてくれて、
患者さんはその間にリハビリをする。
・それで、神経の結びつきを作るのです。
・ただ、改善の度合いには
個人差がある。
・この療法のいいところは、
脳卒中発症後、何年経過しても、
高齢者でも、効果が期待できるところ。
・本当に本当に、朗報ですね。
・気になるのは副作用ですが、
注射した場所が痛んだり、
筋肉がだるくなるなどは
まれにあるそう。
・でも、大きな副作用はなし。
・主な診療科は、
神経内科とリハビリテーション科です。
・この注射により、わずかに動くようになる。
・それで本人も、介護される家族の方も、
非常に自信がつくそうです。
・つまり、小さな機能回復であっても
人間の尊厳が生まれてくると。
・なので、その後の人生が変わるということも
報告されているそうですよ。
・ボツリヌス療法とリハビリで、
6ヵ月の壁は越えられる!
・ガッテン! ガッテン!
□ 磁気刺激治療
・番組はここで終わりません。
・もうひとつ、最新の治療法があるそうです。
・総合東京病院。
・そこで画期的な治療法が、研究されています。
・63歳の男性。
・脳出血による後遺症で、
右半身麻痺と失語症になってしまいました。
・もう10年も前の発症になります。
・右手の指はわずかに動くのですが、
手のひらは開きません。
・ボールなどは、つかむことができない。
・そんな男性には、夢があります。
・大型の一眼レフで、
より美しい写真を撮りたい。
・ある日から2週間の入院で、
新しい治療法を受けることになりました。
・診察室を見せてもらうと、
頭に何か当ててますねえ。
・これは何をしているのかというと、
磁気を当てている。
・この治療を、20分間受けます。
・その後に、リハビリやトレーニング。
・これを2週間続けることになりました。
・1週間後、さっそく変化が。
・指が大きく動くようになってます。
・これは、驚きの変化です。
・そして、2週間後。
・退院の日には、
ボールをつかめるようになっていました。
・5つのボールを、右から左に移動させた。
・その時の笑顔ときたら、もうとびっきり。
・気になるのは、この治療に
どんな意味があったのか。
・この治療を指導してくれた
東京慈恵会医科大学 リハビリテーション医学講座
安保雅博 教授に聞いてみました。
・すると先生は、
「磁気刺激で脳の活性・活動を抑えた」と
説明してくれました。
・脳が頑張りすぎちゃうと、
かえってよくなるべき麻痺が
よくならない。
・「大脳半球間抑制」
という言葉がある。
・人間の脳には、右脳と左脳があると
よく言われます。
・何をするかによって
分担が決まっているとも言われますが、
でも実際は、右脳が働いている時、
右脳が指令を勝手にだしすぎないように
左脳もちょっと働くのだそうです。
・逆に左脳が働く時も、
右脳が左脳の働きをちょっと抑える。
・このような仕組みがあるんです。
・そのおかげで例えば、
人差し指を動かしたい時には
中指や薬指を動かさないように
することができる。
・脳卒中を発症して2年たった患者さん。
・右脳で発症したので
左半身が麻痺している人の脳の画像。
・左手を動かそうとしているのですが、
その時は右脳が使われる。
・でも、画像を見ると、
左脳が頑張りすぎているのが分かります。
・つまり、
左脳による抑制力が働きすぎて、
かえって動かしたい部分が
動かなくなっているんです。
・で、この時、
磁気刺激で左脳の働きを弱める。
・すると、この人は、
お箸を持てるようになったそうです。
・この治療法は、まだ研究段階。
・「磁気刺激治療」というのですが、
研究に参加した患者さんの
7~8割で効果が出ているそう。
・ただし、適応基準を満たさねばなりません。
・それは、
麻痺側の手の指が最低
3本動くこと。
・磁気で脳の働きを弱め、
6ヵ月の壁を超える可能性が!
・ガッテン! ガッテン!
![NHK ためしてガッテン 2012年 05月号 [雑誌]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/61A7CjtmGQL._SX200_.jpg)

□
治るのが難しいと言われてきた中に、この情報。
期待する人も、多いのではないでしょうか。
今までは無理だったのに、可能性が出てきた。
少しでも動くようになった時の、あの顔。
人間の尊厳を取り戻すというのは、本当のようです。
しかし、毒からこんな療法が生まれるとは、驚きです。
磁気によるバランス回復も、期待を持っちゃいますね。
[まとめ]
・リハビリを続けていても訪れる、
6ヵ月の壁。
・この頃から、改善の効果が頭打ちに。
・脳卒中になると、脊髄の中の
神経まで支障をきたす。
・脳からの指令がない中で、
筋紡錘がやたら筋肉に
縮めと指令を出し、
筋肉は硬くこわばってしまう。
・そこで使われるのが、ボツリヌス菌。
・これを注射することで、
筋肉の暴走状態がおさまる。
・さらに、受け皿がちゃんとした
方向を向く。
・この時にリハビリをすると、
6ヵ月の壁を超えられるというわけ。
・人間の脳は、右脳と左脳で
互いに抑制し合い
バランスを保っている。
・しかし、
脳卒中になるとバランスが崩れ、
過剰な抑制が働くことも。
・この時に磁気で脳を抑制し、
バランスを回復させる。
・これが、磁気刺激治療。
・まだ研究段階ですが、効果が期待されます。
次回は、「あの鶏むね肉が絶品に変わるウルトラ技発見」。


→ 「ためしてガッテン 2011年のアーカイブ 前半」
- 関連記事
-
-
「成人期へんぺい足/ためしてガッテン」 2012/06/21
-
「鶏むね肉をパサパサからジューシーに/ためしてガッテン」 2012/06/14
-
「脳卒中 6ヵ月の壁とボツリヌス療法/ためしてガッテン」 2012/06/12
-
「コシの秘密、乾麺で釜たまうどん/ためしてガッテン」 2012/05/31
-
「トクホの拳+噛んでヤセ体質細胞を活性化/ためしてガッテン」 2012/05/23
-
<スポンサードリンク>


