【昔話05】 王様と魔法の小鳥 【モンゴル童話】


不思議な ふしぎな、魔法の小鳥。

逃がさないためには、何が必要?

王様は、どうすればいい?




昔話05 王様と魔法の小鳥




昔むかし、とある国の森で、おかしな噂がありました。

なんでも、不思議な鳥がいて、誰も捕まえることができないのだそうな。

人々はその鳥を、「魔法の小鳥」と呼んでおりました。


やがて、その噂は、王様の耳にも入ることとなりました。

王様はさっそく森へ狩りに出かけたのですが、なんということでしょう、あっさりと魔法の小鳥を捕まえたのでした。

城に帰ると、王様は小鳥をカゴの中に入れました。

すると、小鳥は鳴くでもなしに、人の言葉で話しかけてきました。

「アタシはこれから、物語をお話します。もし、アナタが 憤ったら、たちまち アタシは逃げてしまいますからね」

おかしなことを言うものだと 王様は思いましたが、小鳥の話を聞くことにしました。




お金持ちの男が、荷車に大事なものを積んで、運んでいました。

ところが森の中で、車輪の一つが壊れてしまった。

途方に暮れる男でしたが、運よく、猟犬を連れた狩人が通りかかりました。

男は狩人に事情を話し、自分が戻ってくるまで、荷物の番をしてくれるよう、頼みました。

十分なお礼をするからと。

狩人はこれを承知し、男が助けを呼びに行っている間、犬と一緒に荷物を見張ることにしました。

ところが、思ったより時間がかかったようで、夕方になっても、男は戻ってきませんでした。

こうなると、狩人も心配になってきます。

というのも、狩人には、年老いた母親がいたのです。

母親のことは心配だけれど、荷物を見張ると約束している。

困った狩人でしたが、犬にしっかり荷物を見張るように言いつけ、いったん家に帰ることにしました。


少しすると、助けを呼びに行った男が、戻ってまいりました。

最初、狩人がいないことを不思議に思いましたが、すぐに犬がちゃんと荷物を見張っていることに気づき、頭をなでてあげました。

「かしこい犬だ。これはお礼だよ」

そう言うと、男は犬に 銀貨を1枚 くわえさせました。

犬は、ワン! と返事をすると、尻尾をふりふり、家へと走っていきました。


母親に事情を話し、荷物の見張りに戻ろうとした、狩人。

そこに、犬が駆けてきました。

見ると、銀貨をくわえています。

狩人はそれを見るや、カッとなって、犬を殴りとばして、殺してしまいました。

見張れと命令した荷物から、犬が銀貨を盗み取ったと思ったのです。




「なんてこった!」と、王様は叫びました。

すると、魔法の小鳥はカゴの外に出て、森の方へ飛んで行ってしまいました。

カゴを調べてみましたが、カギはかかったままです。

魔法の小鳥は 名前の通り、不思議な力を持っているようです。




次の日、王様はまた、森へ出かけました。

するとまた、魔法の小鳥は、あっさりと捕まったのでした。

王様は城へ帰ると、昨日より頑丈なカゴに、魔法の小鳥を入れました。

すると、魔法の小鳥は言います。

「アタシはこれから、物語をお話します。もし、アナタが 憤ったら、たちまち アタシは逃げてしまいますからね」

もう、昨日のように憤るまいよ。

そう心に誓いながら、王様は小鳥の話を聞くことにしました。




あるところに、お母さんと赤ん坊が暮らしておりました。

水を汲みに出かける間、お母さんは猫に、赤ちゃんの子守を言いつけました。

猫は言いつけを守るため、赤ちゃんのいる ゆりかごが 見える場所で、見守ることにしました。

ところが、どこからかネズミがやって来て、赤ちゃんの耳をかじってしまった。

猫は怒って、ネズミに おそいかかりました。

あっという間に、ネズミを退治した猫でしたが、赤ちゃんを見ると、耳から血を流しています。

かわいそうに思った猫は、傷口をなめて、なんとか血を止めてやろうとしました。

そこへ、お母さんが帰って来た。

お母さんは驚いて、汲んできた水を、ぶちまけてしまいました。

かわいい赤ちゃんが耳から血を流し、それを猫がなめている。

カッとしたお母さんは、持っていた桶で、猫を殴り殺しました。




「なんてこった!」

憤らないと心に決めていた王様でしたが、時すでに遅し。

魔法の小鳥は カゴの外に出て、森の方へ飛んで行ってしまいました。




次の日、王様はまたまた、森に出かけました。

すると、これまた、またまた、魔法の小鳥は 驚くほどあっさりと 捕まったのでした。

丈夫なカゴに閉じ込めても、この小鳥は不思議な力で、外に逃げてしまうようです。

王様は最初の鳥カゴに、魔法の小鳥を閉じ込めました。

そして、今度こそ憤るものかと、心にかたく誓ったのでした。

魔法の小鳥は言います。

「アタシはこれから、物語をお話します。もし、アナタが 憤ったら、たちまち アタシは逃げてしまいますからね」




ある国で、雨が降らない日が続きました。

人々は、飲む水がなくて困っております。

ある男が 水はないものかと探しておりますと、高台の大岩から、少しだけ水が したたり落ちておりました。

ほんのわずかな水でしたが、これ幸いと、男は 持っていたお椀に、ためようとしました。

すると、どこからか カラスが飛んできて、男のお椀を はたき落してしまった。

お椀が割れたので、もう水を飲むことはできません。

カッとした男は、石を拾うと、カラスに向かって投げつけました。

石はカラスに命中し、カラスは大岩の上へと落ちていきました。

男は頑張って、大岩の上へと のぼりました。

岩の上で、カラスは死んでしまっています。

それより驚いたのは、人間よりも大きな蛇が、岩の上で眠っていたことです。

そして、水だと思っていたものが、実は 大蛇の口から出た毒液であることに気づいた。




「なんてこった!」

王様が叫ぶや否や、小鳥は森の方へ飛んで行ってしまいました。


次の日、王様はもう、森へは出かけませんでした。

魔法の小鳥とも、それ以来、会うことはありませんでした。


でも、聞くところによると、王様はこの日より、ちょっとだけ思慮深い王様になったそうですよ。






<おしまい>












元ネタは、モンゴルの物語だそうです。













最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


のんびり、おだやかに、暮らせますように。





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【映画 ルーム】 髪の毛は力のもと? 【男の子とお母さんの話】


お母さんと一緒に暮らす、男の子。

ふたりには、ある秘密がありました。

それは…




映画 ルーム 髪の毛は力のもと




あるところに、男の子とお母さんが住んでおりました。

朝起きて、体操して、ごはん食べて。

遊んで、お風呂に入って、歯を磨いて。

いつも、ふたりで過ごしています。

いつも、一緒に過ごしています。


その部屋には、ベッドがあります。

テレビがあります。

お風呂があります。

小さな台所があります。

高いところに、天窓もありました。


そこが、男の子にとっての、世界でした。

というのも、男の子は、部屋の外に出たことがないのです。


男の子は、いろんなことを知っていました。

でも、それは、テレビの中で知ったことと、お母さんの話で知ったことでした。

男の子は生まれてから一度も、部屋の外に出たことがないのです。



お母さんは若い娘のころ、悪い巨人にさらわれたのでした。

お母さんは巨人に、虜(とりこ)にされてしまったのです。


お母さんはその日から、部屋の外に出たことがありません。

男の子は、部屋の中で生まれました。





ある日のこと、お母さんは男の子に、外の世界を見せてあげたいと願いました。

そこで、熱いお湯を使って、男の子の額を熱くしました。

熱が出たから お医者に連れて行ってほしいと、巨人にたのむためです。


しかし、用心深い巨人は、男の子を お医者には連れて行きませんでした。


そこでお母さんは、男の子を絨毯で包み込みました。

巨人が来ると、泣き叫び、男の子が死んでしまった、一緒にいると悲しくなるので、どこか外に捨てて来てほしいと、泣きながら うったえかけました。


これには巨人も驚いて、絨毯にくるまった男の子を、捨てに行くことにしました。



絨毯のすきまから、外の世界が見えました。

空が見えました。

雨が見えました。

知らないものが、たくさんありました。


男の子はお母さんと約束したとおり、すきを見て逃げ出しました。

けれど、見つかってしまい、巨人が追いかけてきました。


男の子は巨人につかまってしまったのですが、そこに犬を連れた狩人が通りかかりました。

様子がおかしいと気づいた狩人は、騎士団を呼ぶと、巨人をおどしました。

すると、巨人はしぶしぶ、どこかへ行ってしまいました。


狩人が呼んでくれたので、騎士団が来ました。

けれど、男の子は、うまく説明できません。

お母さん以外の人と会うのも、話すのも、はじめてです。


騎士団の中に、やさしくて頭のよい騎士がいました。

その騎士は、急がず、ゆっくり、男の子が話すのを待ってくれました。

すると、少ない男の子の言葉から、あの部屋を見つけるヒントが得られたのでした。


やがて、お母さんと男の子は、騎士団に保護されました。







男の子とお母さんは、お母さんの家に帰ることになりました。

ばあばが、あたたかく、むかえてくれました。



お母さんは、男の子のお母さんです。

そして、ばあばの娘です。


若い頃にさらわれたお母さんの中には、さらわれたころのままの若い娘と、小さな男の子を守り育てていくお母さんという、ふたりのわたし がいました。

この ふたりの わたしの 板ばさみになり、お母さんは まいってしまいました。






男の子はある日、ばあばに、髪の毛を切りたいと言いました。

ばあばは微笑んで、わたしも切りたいと思っていたのよ、と返しました。


なぜ、長い髪を切らないのか?

なぜ、いま髪を切りたいのか?

その答えは、同じでした。

「髪の毛は力のもとなんだよ」と、男の子は言います。

男の子はお母さんから、サムソンの話を聞いていたのです。


男の子は、ばあばと一緒に髪の毛を切って、それをお母さんにあげました。







やがて、お母さんは元気になりました。

男の子とお母さんは、約束をしました。


いろいろ、やってみよう。

やれることを、たくさん、ためしてみよう。


それは、生きるということでした。






<おしまい>













元ネタは、カナダとアイルランド、イギリス、アメリカが共同制作した映画「ルーム」。

セレブ俳優が出るでもなく、派手さもない映画ですが、トロント国際映画祭では 観客賞を、バンクーバー国際映画祭では 最優秀カナダ映画賞を、それぞれ受賞しています。

お母さん役の ブリー・ラーソン は、ゴールデングローブ賞、全米映画俳優組合賞、英国アカデミー賞で、主演女優賞を受賞。

そして、第88回のアカデミー賞でも、主演女優賞を受賞したのでした。

難しい役をこなした ジェイコブ・トレンブレイ(男の子、ジャック役)の演技も、見ものです。















[ 3月8日に思うこと ]


成功ばかり追うと、苦しい。

なぜ、失敗するのか? となる。


失敗もあり、成功もある。

そう思えば、また別。


だいたい、世界がそうなっている。


プラマイゼロなら、上々。

ちょっとプラスなら、たいしたもの。


失敗の「失」を、矢で射るの「矢」だと言う人も いるのだから。





最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

気持ちよく、いろんなことを試せますように。





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【昔話03】 商人と惣衛門の金言 【後編】


わけあって、家を離れた男。

20年ぶりに、帰ることになりました。

土産は菱餅と、3つの金言?




昔話03 商人と惣衛門の金言 後編




最初重かった足も、日が経つにつれ、普段通りに戻ってまいります。

3両のことは悔やまれますが、それはもう どうしようもないこと。

せめてこの菱餅を土産にしよう。

みんな元気だろうか?

店はまだあるのだろうか?

男はできるだけ、いいことだけを考えるようにしました。


道中、男は 旅一座の一行と出会いました。

旅は道連れということで、一緒に歩いてまいります。

小さな一座でしたが、みな気がよくて、おしゃべりも達者。

歩きながら話をしているだけで、愉快になります。


と、分かれ道に出くわしました。

旅一座は あっちに行くという。

でも、男が行こうと思っているのはこっち。

男は思案しました。

一緒にあっちに行くと、遠回りかな?

でも、道連れになったら、楽しそうだ。

遠回りするだけのことは、ありそうに思える。

がその時、男の頭の中で、惣衛門の声がしました。

「お~い、忘れるな~」

「新しい道のために、古い道を捨ててはならん」

男は、一緒に行こうという 旅一座の申し出を断りました。

今までの礼を言って、互いに手を振り合いながら、あっちとこっちに分かれます。


やがて、あっちの方で声がしました。

声というより、悲鳴です。

それも、聞き覚えのある声。

男はそっちを見上げて、ぞっとした。

そういえば、山賊が出ることがあると、茶屋のおやじが言っていた。

男は駆けだしました。

一心不乱に、ただただ足を動かしました。



気がつくと、日が暮れかけていました。

見回すと、そこいらじゅう原っぱで、何もない。

これは困ったなと思っておりますと、やがて 小屋が見えました。

幸いなことに、灯りがあります。

男は戸口に立って、泊めてもらえないかと頼んでみました。

すると、ほどなくして戸が開いた。

小屋の主人は男の方を見るでもなく、ただ こくりと小さく頷きました。

どうも泊めてくれるらしい。

男は小屋に入りました。


飯時だったようです。

小屋の主人は男に座る場所を指さすと、お椀を持ってきてくれました。

その椀に、雑炊のようなものを よそってくれた。

何を話すでもなく、男と小屋の主人は 雑炊を いただきました。

食べながら、男は小屋の主人の顔を こっそり見てみた。

口元は笑っているようにも見えるのだけれど、目はとても笑っているとは思えない。

というか、よう見えん。

髪で隠れているわけでもないのに、影になってよう見えません。

口元の笑みを、あふれ出る陰気さが消しておりました。


と、奥の襖が開いた。

出てきたのは、女です。

長い髪はバサバサで、顔を覆っております。

這いつくばって、両手を使い、あたりを確かめる。

どうも、目が不自由なようでした。

男は黙って立ち上がると、奇妙な椀を持ってきて、雑炊のようなものを よそいました。

女はそれを受け取ると、奥に下がっていった。


男の持つ椀が、震えておりました。

小屋の主人が女に持たせた、あの奇妙なお椀。

しゃれこうべじゃなかったか?


小屋の主人は元居た場所に戻ると、男の方を見るでもなしに、口を開きました。

「どう思う?」

男は何も言いませんでした。

唾を飲み込むのがやっとで、言葉など出るわけがない。

平静を保とうとしますが、手の震えは止まりません。

小屋の主人は続けました。

「あれは、よくないことをしましてね」
「罰を与えたんです」
「しゃれこうべ、見たかい?」
「あれは、一緒によくないことをした男のもんなんだ」
「あんた、どう思う?」

震える男の頭の中で、惣衛門の声がしました。

「お~い、忘れるな~」

「他人のことに口出しするな」

すると、わずかながら力が湧いてきた。

男は鼻から息を吐き出すと、口から大きく息を吸い込み、言いました。

「あんたには、あんたの、思うところがあるだろう」

小屋の主人は黙っておりましたが、続きを待っているようでもありました。

男は言った。

「何がよいか、何が正しいか、それはそれぞれが持つもんだ」

「あんたにはあんたの、それがあるに違いない」

お椀の中の雑炊のようなものを一心に見つめ、男は言い切りました。


「そうか」

小屋の男はそれだけ言って、また黙りました。


何とか椀の中身を 口の中に流し込む、男でございました。

味などするはずもありません。


生きた心地のしない男でしたが、ひと晩をその小屋で過ごし、翌朝には旅立ちました。


小屋が見えなくなるところまで歩いてやっと、男はひと息つけた。

それにしても、あの雑炊のようなものは、何が入ってたんだろう?

ちょっとだけそう思いましたが、それ以上は考えないようにしました。





歩いて歩いて、もう何日だろうか。

ある日のこと、男の前に懐かしい風景が現れました。

ああ、この山。

ああ、この川。

ああ、この丘。

などと眺めておりますと、ついに自分の故郷にたどり着きました。



うれしいことに、店はそのまま残っておりました。

やや年季が入りましたが、忘れられない家があります。

男はこっそり、家の中を覗きました。

すると、女房の姿があった。

が、誰かと抱き合っております。

相手は、若い男でした。

すらりとした、今でいうところの、イケメンでございます。


男は姿を隠し、震えました。

なんてことだ。

なんてことだ。


懐かしい小川まで、とぼとぼ歩き、考える。

そういうものだろうか?

懐に手を入れると、小刀がありました。

菱餅を切るためのものです。


これで女房を…。

いや、己の首を…。


と、頭の中で、惣衛門の声がした。

「お~い、忘れるなよ~」

「怒るのは次の日にしなさい」


男は顔を上げると、家の方に走り出しました。

家の前まで来ると、家には入らずに、隣の家に入った。

「ごめんやし」

すると、女の人が出てきた。

男は、自分の家を指さして聞きました。

「あそこには誰が住んでるんですか?」

ん? といった顔をした女ですが、すぐに「ああ」と言って しゃべりだした。

「まったく、めでたいねえ」


女の話によると、あそこの奥さんは苦労して子どもを育ててきたらしい。

そしてやがて、上の子が店を手伝うようになり、下の子も頑張って奉公し、それが大きな店の主人に認められ、婿養子になることが決まったのだという。

今日あたり、お祝いでもするのだろう。

これでもう安泰だと、女は言いました。


「ありがとう!」

男はそう言って飛びだすと、やっと我が家の門をくぐりました。


驚いた顔をする女房と我が子でしたが、わだかまりも見せず、互いに喜び合いました。

男は今までのことを話し、女房と子は うんうん頷きながら、それを聞く。


やがて男は はっとして、風呂敷を開きました。

そう、この菱餅を食べねばならぬ。


男は菱餅に、小刀を入れました。

と、ガチっという音が。

何かと思ったら、中から 小判が3枚 出てきました。

男は額に手を当てて、言った。

「こりゃ食えん」








<おしまい>












元ネタは、イタリアのお話。

「ソロモンの忠告」です。














最後まで読んでいただき、ありがとうございました。



よい春が訪れますように…





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【昔話02】 商人と惣衛門の金言 【前編】


昔むかし ある所に、商いをして暮らしている男がいました。

商いはそれなりに成功し、それなりに信用を得て、妻をめとり、子どもも生まれました。

全ては順調でした。




昔話02 商人と惣衛門の金言




それなりというのは、なかなか かけがえのないものです。

あるとないでは、大違い。

失ってはじめて分かることも、あるでしょうか。


おや、男にも その日が来たようです。


ある日の早朝、男はいつものように、店の戸を開けました。

すると、見知らぬ男が 店先に転がっている。

一目見て、命が失われていることが分かります。

魂の有り無しというのは、それだけ雄弁なのです。


男は固まってしまいました。

このまま番所に通報するか?

いや待て、信用されるだろうか?

あらぬ嫌疑をかけられるのではないか?

捕まるのではないか?

厳しい取り調べが始まるのではないか?

自分はそれに耐えられるだろうか?

嫌な未来が、次々にわいてまいります。


商いをしている男は、逃げ出してしまいました。

何も持たず、ただただ走った。

どこへ向かうでもなく、ただただ足を動かし、離れたのです。



いくつの山を越えたでしょうか。

男はやがて、塾の前にたどり着きました。

惣衛門という人が営んでおります。

商いをしていた男は その惣衛門に頼み込んで、住み込みで働かせてもらうことになりました。

報酬はいらないのでどうか働かせてほしいと、一生懸命お願いし、何とか それが受け入れられました。



惣衛門の塾には、全国津々浦々から たくさんの人が集まってきました。

武士もいれば、商人もいます。

農民もいれば、僧侶もいる。

たくさんの人がやって来ました。

何のために来るのかといえば、惣衛門から金言を授かるためです。

人々は相談し、惣衛門は何かしらの答えを授ける。

代わりに、惣衛門はお金を受けとります。

その内容については、元は商人で 今は惣衛門の元で働いている男は、知りません。

が、お客人たちが喜んで帰る様子は、いつも見ていました。

それだけに留まらず、再びやって来て、お礼の品々を置いて帰る者もおります。

庭の掃除をしたり、風呂を焚いたり、飯を作ったり、惣衛門の身の回りの世話をしながら、男はちょっと離れたところで、そんな様子を何年も眺めておりました。



やがて、4年が5回も過ぎ去った。

惣衛門の元で働きながら、男の心に いつもあるのは、店と残してきた家族のこと。

忘れようとしても、忘れられるものではありません。

その思いは募りに募り、ある日のこと、惣衛門に暇をもらえないかとお願いしました。

ひと通り話を聞いた惣衛門は、迷うことなく承知し、餞別として男に 小判3枚を持たせました。

それを懐に入れて旅立とうとする男に、惣衛門は言いました。

「おまえは、私に聞きたいことはないのか?」

男の脳裏に浮かぶのは、うれしそうな客人たちの顔。

来た時と帰る時の顔が、まるで違う。

不安を取り除くまじないでもあるのか? と思えるほどです。


男は惣衛門の方に向き直り、頭を下げてお願いしました。

「ぜひ、金言をくださいまし」

もちろん、惣衛門は頷きます。

ただ、金言ひとつにつき 1両だという。

男にとって 1両は大きなお金でしたが、払うことにしました。


惣衛門が口にした ひとつめの金言は、こうだった。

「新しい道のために、古い道を捨ててはならん」


はあ?

何のこっちゃと、男は思った。

思案するものの、何を意味するのか、さっぱり分かりません。


男は思い切って、もうひとつ金言をいただくことにしました。

すると、惣衛門は言った。

「他人のことに口出しするな」


なんじゃそりゃと、男は心の中だけで、口をへの字に曲げました。

これで 小判2枚?

なんで客人たちは、ニコニコしながら帰ったんだろう?


男は懐に手を入れて、残った1枚の小判を、指でなでました。

そして、思い切った。

「もうひとつ、くださいまし!」

惣衛門は微笑んで言いました。

「怒るのは次の日にしなさい」


男の失望といったら、そりゃもう。

今にも泣き出しそうでした。

涙がこぼれそうで、しょうがない。

これでは博打(ばくち)うちと変わりやしない。

もう1回 もう1回と有り金はたいて、すっからかん。


下を向いて肩を震わす男に、惣衛門は言いました。

「これを持って行きなさい」

手渡されたのは、大きな菱餅。

それを風呂敷にくるんでくれました。

「日持ちするから、家に帰ってみんなで食べなさい」

男は下を向いたままそれを受け取り、深く頭を下げました。

踵(きびす)を返し、惣衛門に背を向ける。

「ありがとうございました!」

なんとか声を振り絞ることができました。


こうして男は、己のバカさ加減に泣きながら、20年お勤めした家を去ったのでございます。

遠くで惣衛門の声が聞こえます。

「お~い、忘れるなよ~!」


忘れたいわい! と、男は心の中で叫びました。

本当に泣けてくる。






<後編に続く>












さてさて、男は家に帰れるんでしょうか?

3つの金言は、結局、何だったの?














最後まで読んでいただき、ありがとうございました。





何もない幸せ。

穏やかなのは、素晴らしきこと。


ちょいと寒いけど…





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【昔話01】 生まれ変わった石切り


昔むかし ある所に、石切りの男が住んでおりました。

毎日 山に出向いては、石を切り出します。

毎日毎日、石を切り出しておりました。




昔話01 生まれ変わった石切り




しかし、ある日のこと、男はイヤになりました。

毎日毎日 石を切り出しても、生活は豊かにならない。

手はボロボロだし、腰も痛い。

それになんだ、あの太陽は。

サンサンと照らしやがって。

サンサンと照らすから SUNとでも言うのかと、悪態をつきます。

あんなに高いところで照らして、さぞいい気分だろう。

「ああ、くそう! ワシは太陽になりたい!」

「神様いうもんがおるんやったら、ワシを太陽にしてみい!」




「なりたいの?」

空から声がしました。

石切りの男が見上げると、姿はないが 声はする。

「太陽になりたいの?」



石切りの男は、ゾクッとしました。

この声は神様か?

ヘタなことを言うと、バチが当たるんじゃないか?

しかし、それ以上に、日頃のうっぷんが溜まっていました。

溜まって、たまって、爆発のきっかけを待っていたのです。

「ああ、なりたい! ワシは太陽になりたい!」



「ほな、なったら?」

なんとも軽い、神さんです。



「?」

なにか おかしいことに、男は気づきました。

川を見下ろしている、村を見下ろしている、城を見下ろしている、山さえ見下ろしている。

元石切りの男は、自分が太陽になっていることに気づきました。

「こりゃ、ええぞ」

太陽になった男は、村を照らしました。

「明るいか?」

畑を照らしました。

「どうや?」

城には強く照らしました。

「暑いやろ?」

元石切りで 今は太陽の男は、時には恵みを与え、時にはイジワルをし、照らし続けておりました。

しかし、ある時、気づいた。

「あの雲いうやつは、ワシを簡単に隠しよる」

「ワシの方が高いとこにおるのに、なんや、あいつの方が強いんか」


元石切りで 今は太陽の男は、くやしくなりました。

「なんや、しょーもない」

「ワシは雲になりたい!」




すると、太陽よりさらに高いところから、声がしました。

「なりたいの?」



元石切りで 今は太陽の男は、ビクッとしましたが、今までのことを思い出して言いました。

「なりたい、雲になりたい」



「ほな、なったら?」

ホンマに軽いなあ。



元石切りで、次に太陽になった男は、雲になっておりました。

太陽よりは低いところにいますが、今ではその太陽を遮ることができます。

「どや、強いやろ?」

空を動いて、自由に 地上に影を作る。

汗をかきかき 畑仕事をしている者に、日陰を作ってやる。

土地が乾いたと思ったら、雨を降らせてやる。

時にはイジワル心が働いて、川を氾濫させる。

何でも自由自在。

元石切りで、次に太陽になって、今は雲の男は、得意になりました。

「どや、すごいやろ」

「何でも、でけるで」


しかし、ある時、気づきました。

いくら雨を降らしても、ビクともしないやつがいる。

悠然と構えて、微動だにしない。

「なんや、あいつ」

元石切りで、次に太陽になって、今は雲の男は、くやしくなりました。

「なんや、山のやつ」

「ドシっとしやがって」

「あいつの方が強いんか?」

「あいつと比べたら、ワシはカスなんか?」


泣きそうになって、叫びました。

「ワシは山になりたい!」



「なりたいの?」

あいかわらず、軽い神さんです。

神さんじゃなくて紙さんじゃないかと疑うくらい、軽い。

「ほな、なったら?」



もともとは石切りで、次に太陽になって、その次に雲になった男は、こうして 山になりました。

なんと、気持ちのいいことか。

地に足つけて、どっしりと構える。

まわりのなんと小さいことよ。

ちまちま動いとる。

晴れ晴れとして、ゆったりと、日々を過ごしました。


しかしある時、足元に違和感を覚えた。

「ん? なんや痛いぞ」

人間でいうところの足元を見ると、人間が何かしてます。

目を凝らすと、山から石を切り出しておりました。


元石切りで、次に太陽になって、その次に雲になって、またその次に山になった男は、泣きそうになりました。

痛いからではありません。

情けなくなったのです。

山になって威張ってみたものの、あの小さな石切りの男に削られてしまう。

結局、山より 石切りの方が強いのか。

泣きそうになって、つぶやきました。

「ワシは石切りになりたい」








男は自分の手を見つめました。

ゴツゴツしております。

しばらくして、気づいた。

もともと石切りだった男は、次に太陽になって、その次に雲になって、またその次に山になって、またまたその次に 石切りにもどったのです。

「夢やろか?」

そう思ったものの、太陽、雲、山になっていた実感が残っている。

しばらく たたずんでおりましたが、カラスの鳴く声が聞こえた。

もう、日が暮れそうです。

石切りにもどった男は、小屋に帰って、飯を食って、風呂に入って、寝ました。







朝です。

男は石を切り出すために、山へと出かけました。


男は 願って太陽になり、また願って雲になり、またまた願って 山になったものの、結局、石切りにもどったのです。

何も変わらなかった。






というわけでもなさそうです。

顔が違う。

石切りに出かける男の顔には、どこか すがすがしいものがありました。




<終>







最後まで読んでいただき、ありがとうございました。



あなたに幸あれ。





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プロフィール (Who is)

荒巻ケンコー

 

管理人 : 荒巻ケンコー

50歳代に突入し、健康の話題を口にすることが多くなりました。老眼が始まったり、白髪もチラホラ。筋肉痛は、2~3日遅れる。

老化は止められないけど、緩やかにしたい。できるだけ健康でいたい。できれば、生活を楽しみたい。そういう気持ちで、情報を集め、分かりやすく記録に残しています。

おいしい食材や簡単料理にも、興味あり。


過去の病気 : 腰痛(椎間板ヘルニア 手術暦あり)
現在の病気 : 花粉症。  

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